ブロッケンの悪魔 南アルプス山岳救助隊K-9
樋口明雄氏とは,山と渓谷に連載されている
「レスキュードッグ・ストーリーズ」との出会いが始まりです。
本格的に山に登り始めたのが2015年からで,
それまではblogのタイトルにもあるBethと一緒に,
近所の里山や河川敷,海岸を歩き回り,
だいたい歩きつくしていました。
(と本人は思っていただけ)
そして,お散歩仲間からは,健脚のノザポンと恐れられるまでになっていたのです。
「そこのけそこのけBeth御一行様のお通りだ!!」
が,しかし。
岩沼にある山の会に入会。
山は奥が深い?そして深みにはまればハマル程,その高みは遠ざかっていく。
安達太良山の馬車道の下り。
旧道への分技点で,単調でつまらないという思いが限界に達してました。
「こっちの道って,どうなってるんですか」って聞いてみました。
「旧道だよ」
そりゃ,道標に旧道って書いてあるんで判るんですけど。
「歩けるんですか」
「歩けるよ。同じ場所に通じてるし」
「こっち行きませんか。この道ツマンナイし」
「おお。いいぜ」
とT.A氏とK.K氏
T.A氏を先頭に僕,そしてK.K氏。
ところが,先頭を行くT.A氏
「トッ,トッ,トッ,トッ,トッ,タ。トッ,トッ,トッ,トッ,トッ,トッ,トッ,トッ,トッ,トッ,タ。」
速いんです。
「速いっすね」
「こういう下りは,こういう風に下りるんだよ」
「ゲッ,滑るんですけど」
そのとき後ろからK.K氏
「T.Aさんは,軽いから」
「おおお,なるほど」
「でもね。歳とるとね。若いころに比べると復元力が弱くなってね~。やっぱり」
それにしても,僕より年齢が10歳以上は上だろう。
なんだ,このおっさん達は。と思いながら,何とか転ばず目的地へ。
はっきり言ってヤバかったです・・・脚が。
下山後の登山口で,精一杯涼しい顔しながら,しゃがむこともできず「脚イテ~」
と言う風に山の洗礼をうけつつ。
その年の10月には,ソロで不忘に挑戦。
何とか登りきったものの,やはり体力のなさを痛感。
日々のトレーニングにいそしみながら,登山に対する心構えなど考えるようになり。
いろいろ,本を読むようになりました。
そんな時,本屋で目に留まったのが『山と渓谷 2月号』
手に取ってみると
【あなたも危ない!すぐそこにある山の遭難・・・】
という特集記事のタイトルが目に飛び込んできました。
そして,サブタイトルが
≪体力不足,道迷い,楽観主義 昨今の「遭難三大誘因」を探る≫
手に取りペラペラとめくって読んでいると
「おおお!何だこの本は。今の俺が知りたいこと書いてあんじゃん」
と妙になまった日本語を呟きながら
「チ~ン。ジャラジャラ。ありがとうございま~す」
そして,読めば読むほど判るんだけど・・・じゃどうすればいいの。
翌月号(3月号)の予告を見ると
【山のからだ総点検】
「ムムム。深みにはまりそう」と更に購入。
そして,ヤマケイに片足を突っ込みつつある自分を意識しつつ
翌月号(四月号)の予告を見ると
【独学登山の処方箋】
「チ~ン。ご愁傷様です」
ヤマケイが繰り出す記事にがんじがらめ。
この号から「レスキュードッグ・ストーリーズ」の連載。
そして,樋口明雄氏のインタビュー
『ブロッケンの悪魔』とK-9シリーズ。
山と溪谷2016年4月号 [雑誌]
最初に読んだのは
「レスキュードック・ストーリーズ 第一話 遺書」
最初は戸惑いました。
なにせ,山の事はずぶの素人。
ましてや南アルプスの事などホワイトアウト。
山の名前や地名など,聞き覚えがないものばかり。
文字の道筋の中でルートファインディングが出来ずに,
只々,足元の踏み跡をトレースしながら読み進めていくうち。
文中に出てくる要救助者のこころの迷いと震え,
山に至るまでのこころの葛藤や日常の回帰への回顧。
そして,存在する事への危惧。
等,不思議に共鳴している事に気付かされました。
2話,3話と読み続けるうちに,
メイと夏美の描写は,Bethと生活を共にしながら,
ライフスタイルが変わってきた自分達の生き方と重ね合わせる様になったのです。
そして,すっかりこの物語のファンになっていました。
そして,
手のつけようもなくどうにもならない痛みも峠を越し,
ベッドでジンジンする右下半身を抱えながら,
憂鬱な気分でいた時,
『ブロッケンの悪魔』を手にしたのです。
(やさしくしてね♡~過猶不及:火星から来たBeth)
何故この本だったのかは判りません。
このシリーズは南アルプス山岳救助隊と救助犬をテーマにしており,
ハンドラーの星野夏美と救助犬ボーダーコリーのメイがメインになって進むお話で,
レスキュードッグストーリーズと同じ舞台で物語が展開します。
その中でも特に夢中で呼んだのは,
大型台風が南アルプス全域を襲う中,
夏美の同僚であるハンドラーの神崎静菜と救助犬バロンが御座石鉱泉から燕黒頭山経由し,
地蔵岳の鳳凰小屋まで向かうまでのシーンです。
描写がすさまじく,夢中で読んでいました。
途中,夕食に呼ばれて,モンベルのアルパインポールを使って,何とか食卓につくと。
そこには韮の卵とじが小皿に盛られていました。
それを見て
「エッ?こんな大雨の時,庭から採ってきたの?大丈夫だった?」
韮は冬以外購入しません。10年以上前に奥松島から移植した韮です(火星農園)。「?」
「だって大雨だよ。濡れなかったの?」
「何言ってるの。雨なんか全然降ってないわよ。どうしちゃったの?」
「エ?・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
その時我に返って,小説の中に入り込んいた自分に気付きました。
「ブロッケンの悪魔でさ。
大型台風の中,御座石鉱泉から鳳凰小屋へ向かう描写が凄くて。
今まさに大雨が降ってるような気がしてたんだ」
「へ~」
この本には巻頭に南アルプスの地図が載っており,
その地図をA4サイズにコピーし,その地図を見ながら読むことにしました。
南アルプスの山域を理解しながら読みたいと思ったからです。
それはとても意外な結果を生みました。
次第に北岳が陸の孤島と化していく様と,
その北岳目指して,障害を取り除こうとする為に様々なルートから北岳を目指す様子が手に取るように判ったのです。
南アルプスの山域を知ってる人にとっては,巻頭の地図だけで造作もなく判る事なのでしょうけど。
更に理解を深める為に,
小説の中に出てくる重要な地点や分技点,
地名を国土地理院電子地図やGOOGLE MAPを開きながら確認し,
A4サイズにコピーした地図に書き込んで行きました。
ルートファインディングじゃありませんけど,道筋が明るくなり,より物語の展開が面白くなりました。
そして,この地図を基に,もう一度レスキュードッグ・ストーリーズの第一話を読んでみたのです。
「おおお!素晴らしい」北岳周辺の凹凸まで見えてくるような気がしてきたのです。
(ちょっと大げさに言いました)